ブラームス ピアノ小品集 作品76, 118&119

 

福原彰美ソロアルバム
 ブラームス:ピアノ小品集〜孤高の作曲家が音楽に込めた愛〜

ソロアルバム『ブラームス ピアノ小品集 』がAcoustic Reviveより発売となりました。

2017年5月、相模湖交流センターにて、作品76・作品118・作品119等を収録させて頂きました。
孤高のロマン派を貫いたブラームスが、晩年に向けてさらに複雑な内面性をもって現れる珠玉の作品群です。

シンフォニックなピアノ、斬新で天才的な書法のピアノ、ゴツゴツとした田舎風のピアノ、親密な心の語り相手としてのピアノ、ドイツ歌曲の中のピアノ…
ブラームスの様々な音に出会いました。

エンジニアには名匠鈴木智雄氏、Acoustic Revive社の音響技術を結集し、DSD11.2Mhzでの録音です。

「ブラームス回想録集」の編者として著名な天崎浩二氏による解説、
また、ピアノは名器カール・ベヒシュタインに古典調律を施しました。
心から愛するブラームスの作品を最高の録音環境で納めていただいております。
e-onkyoでは、ハイレゾ配信でもお楽しみ頂けます。
複雑で美しいブラームスのスコアが、真実味を持って迫ってくると思います。
是非、皆さんに聴いていただきたいです。

福原彰美

 

=================================

CDの企画者、天崎浩二さんから推薦を頂きました。

“企画・解説者の立場から、このCDの他には決して見られない特徴をいくつか挙げてみたい。アコースティック・リヴァイヴ(以下アコリバ)の見事な録音については、雑誌「ステレオ」「オーディオ・アクセサリー」「無線と実験」などで取りあげられている。しかし私の場合、企画段階で高音質の前段階—-つまり音楽面で、ブラームス本人を喜ばせる録音を作りたいと願っていた。製作会社のアコリバも同意見であり、高度な音楽表現のため、録音に様々な工夫が施されることになった。

私はブラームス大好き人間なので、ピアノ音楽のCDも本棚に沢山入っている。しかし満足できる録音は本当に少ない。原因のひとつは「中低音問題」。ブラームスのピアノ作品の決定盤として昔から愛聴されているのは、 W.ケンプや W.バックハウスの演奏だ。しかしそんな著名録音でも、ブラームスの厚みのある和声を支える低音部が濁り、音域が下がるにつれ音量も減衰し、音程さえあやふやになる。ブラームスは低音の聞こえないピアノ演奏を毛嫌いし、コテンパンに論評していた。低音を軸に、音を積み上げて作曲をしたブラームスだから、当然の成り行きだ。没後120年の記念盤で何とかしなくては、またブラームスの怒りを買うことになる。

しかし現代ピアノという楽器は、どうにもならない構造上の問題を抱えている。低音域弦と中音域の弦が交差するので、その音域はどうしても濁ってしまう(ブラームスが使っていたピアノは平行張り)。さらに、それらの弦の上にはピアノの蓋が斜めに被さる。しかもコンサート会場でピアノを聴く我々は、高音側に座る、また多くの録音では、客席側から蓋の中を狙ってマイクを向ける。だからコンサートでもCDでも、中音低音が濁り減衰して耳に届くのは、やむをえない。でもピアニストの手は、鍵盤を左右に駆け回る。たまにピアニストの横に座って「譜めくり」をすると、(当然のことながら)全ての音が左右に分離して聞こえ、88個の鍵盤が造り上げる宇宙に圧倒される。これは録音なので、コンサート会場でピアノを鑑賞する際の問題点は、解消できるのではないか。ピアニストの感動が共有でき、さらにブラームスの音楽を理解できるCD。これを目標に、録音方式やマイクセッティングが決められることになった。

例えば、収録された《奇想曲》作品76-5。最低音は、オクターブで「ガツン・ガツン」とリズムを刻む。旋律と低音の間には、驚くべき対旋律。通常の録音では、最も分厚くかれた低音部がボケるため、低音VS. 対旋律VS.旋律の、音楽的意味合いが薄れてしまう。しかしこのCDでは、どんなに音量が上がっても、最低音ラインが完璧に耳に届き、左右のスピーカの中央から聞こえる対旋律と右側から聞こえる高音部の旋律が完全に分離する。まるで交響曲。何拍子で進んでいるのか皆目見当も付かない《奇想曲》作品76-8にも驚かされる。これほど複雑な対位法が混濁せず聞こえ、聴き手の心を沸き立たせるのは、録音史上初めての出来事だろう。

ふたつ目の工夫は、ピアノの調律とピアノ選び。現在、ピアノ調律は平均律(全ての鍵盤の互いの音程が同じ)が常識だが、ロマン派時代はさまざまな不均等調律が行われていた。「ヘ長調は天国的に響くが、嬰ヘ長調は熱に浮かされたような音がする」など、24ある長調・短調の響きが、少しずつ違う。当時の作曲家が不均等調律を使用していたのは、況証拠で明らか。ピアノをヴェルクマイスターやヴァロッティ&ヤングといった代表的な不均等法で調律して、ショパン、メンデルスゾーン、ブラームスを演奏すると、曲が生き生きと語り始めるのだ。今回は様々な調律を試した挙げ句、現代ベヒシュタインにぴったりと思われる折衷案を採用した。曲が転調して行くと、音楽と一緒に旅をする感覚が得られる。ピッチも低めで、それが演奏にさらなる落ち着きを与えている。ピアノも探し回った。 使用したベヒシュタインは新しいグランドピアノだが、低音の表現力があり、中音・高音もアナログ的・木彫的感触で、ブラームスを再認識するのに相応しいと思えた。

3つ目はもちろん演奏そのもの。解説にもいたが、ブラームスはクララ・シューマンの褒め言葉を何よりの励みとした。そして彼女の弟子の I. アイベンシュッツの天才的演奏にも惹かれ、作品118と119の初演を任せた。ブラームスは自分の作品が、理知的で、情熱と情感を併せ持つ女性音楽家に深く理解されることを、無上の喜びとしたのだ。即興的で情熱的なアイベンシュッツのブラームス演奏は、数少ないが聴くことができる。福原彰美の演奏は、恐らくアイベンシュッツと同一線上にあり、ブラームスは大喜びするに違いない。彼女は複雑な法を完璧に捉え、情熱的にロマンティックに、そして明快に表現し、ブラームスを21世紀に蘇らせる。なよなよしたセンチメンタリズムは皆無。「4小節ごとにリタルダンドして、重々しく弾けばブラームス」などという、誤解に満ちた演奏からは程遠い。有名な《間奏曲》作品118-2を聴いていただきたい。ねっとりと弾かれることの多い曲が、流麗に流れ、譜面に隠された複雑なリズム法が初めて明らかになり、ブラームスのいた信じられないほど美しい和声と対位法が、一体となって我々の心に届いてくる。ブラームスがクララ・シューマンを最後に訪問した時、彼女が演奏したのは《ロマンス ヘ長調》作品118-5、それを聴いたブラームスは、感動に涙ぐんだという。神奈川県立相模湖交流センターで、この曲を録音した時、アコリバのスタッフが、ハンカチで涙を拭っていたのが忘れられない。

ピアノ小品集、作品76と118の間に、2つの時期を繋ぐ歌曲編曲を挿入した。ブラームスの歌曲は、多くの場合、声とピアノ声部が同等にかれているが、コンサート会場では、声に隠れて、ピアノの声部は殆ど聴き手に届かない。このように全ての声部をピアノで演奏し、このクオリティの録音で聴けば、スコアの凄さが、改めて感じられる。これがブラームスの新たな発見に繋がれば嬉しい。

レコード芸術」では推薦盤になったが、これら様々な要因が造り上げたCDの芸術性は、雑誌の評価を大きく超えている。皆さんには是非とも、ブラームス至高の芸術をとことん追求し表現したCD、あるいは現代最高のスペックを持つ高音質の配信をお聴きいただきたい。” __ 天崎浩二

天崎浩二

有限会社ミュージック・サプライ代表取締役、日本ブラームス協会、エルガー協会(英国)会員。訳書に、『ブラームス 四つの交響曲』、『ブラームスの「実像」』(共訳)、『ブラームス回想録集第1巻 ヨハネス・ブラームスの思い出』(編・訳)、『ブラームス回想録集第2巻 ブラームスは語る』(編・訳)『ブラームス回想録集第3巻 ブラームスと私』など(編・訳/以上 音楽之友社)

================================

 

 

〈収録作品〉

ヨハネス・ブラームス

8つのピアノ小品集  8 Klavierstucke Op.76
1: No.1 奇想曲嬰ヘ短調  Capriccio in F# minor
2: No.2 奇想曲ロ短調  Capriccio in B minor
3: No.3 間奏曲変イ長調  Intermezzo in A♭major
4: No.4 間奏曲変ロ長調  Intermezzo in B♭major
5: No.5 奇想曲嬰ハ短調  Capriccio in C# minor
6: No.6 間奏曲イ長調  Intermezzo in A major
7: No.7 間奏曲イ短調  Intermezzo in A minor
8: No.8 奇想曲ハ長調  Capriccio in C major

2つの歌曲(ピアノ独奏用編曲:福原彰美・天崎浩二編)
9:《昔の恋》Alte Liebe (Old Love), Op.72 No.1
10:《野に独り》Feldeinsamkeit(Alone in the Fields), Op.86 No.2

6つのピアノ小品集  6 Klavierstucke Op.118
11: No.1 間奏曲イ短調  Intermezzo in A minor
12: No.2 間奏曲イ長調  Intermezzo in A major
13: No.3 バラードト短調  Ballade in G minor
14: No.4 間奏曲ヘ短調  Intermezzo in F minor
15: No.5 ロマンスヘ長調  Romanze in F major
16: No.6 間奏曲変ホ短調  Intermezzo in E♭minor

4つのピアノ小品集 4 Klavierstucke Op.119
17: No.4 間奏曲ロ短調  Intermezzo in B minor
18: No.2 間奏曲ホ短調  Intermezzo in E minor
19: No.3 間奏曲ハ長調  Intermezzo in C major
20: No.4 狂詩曲変ホ長調  Rhapsody in E♭major